Effect of Nudge-Based Intervention on Adherence to Physician Visit Recommendations and Early Health Outcomes among Individuals Identified with Chronic Kidney Disease in Screens
https://jasn.asnjournals.org/content/early/2021/12/11/ASN.2021050664
慢性腎臓病(CKD)患者の多くは、せっかく健診で見つかっても未診断、未治療のままであるというスクリーニング後の受療行動の課題を以前の検討で明らかにしました。
https://jech.bmj.com/content/73/12/1122
この課題を解決するために行動経済学のナッジを活用した行動変容介入を設計し、保険者データベースに実装し、RCTで効果検証を行いました。
通常のRCTでは基準を満たす対象者をリクルートし整備された環境で行う実験ですが、本研究は保険者データベース上のリアルワールドに近い環境で実験を行うRCT on databaseという研究デザインを採用しています。約11万人の健診受診者からCKD進行リスクのある約4000人を介入対象者として抽出して、行動変容介入をランダム割付しました。
介入は、①ナッジ群、②臨床情報群、③コントロールの3群を設定し、2:2:1で割付ました。
ナッジ群 | 臨床情報群 | コントロール | |
検査結果の通知 | ○ | ○ | ○ |
教育的情報 | 腎臓病の知識(腎不全進行、及び心血管病発生の危険性) | ー | |
損失フレーム | 重症化あるいは合併症を予防する機会の損失 | ー | ー |
ディフォルト | 受診までの簡略されたステップ | ー | ー |
コミットメントデバイス | 医療機関名と受診日時の記載 | ー | ー |
いずれの群でも健診結果の通知を行っています。ナッジ群や臨床情報群では追加した受診勧奨の通知を行い資材中でCKDの教育的情報を伝えています。ナッジ群では、損失フレーム、ディフォルト、コミットメントでバイアスなど、受療行動を後押しするナッジアプローチを取り入れました。
割付に応じたITT解析にて、ナッジ群と臨床情報群は、いずれも、コントロールと比較して3.9%の受療行動改善を認めました。また、早期健康アウトカムとして1年後の健診結果(eGFR、尿蛋白、血圧)を比較しましたが、統計学的有意差を認めませんでした。
CKDスクリーニングを効果的に設計するための健診後の行動デザインは重要です。対象者特性、ナッジアプローチ、対象行動の組み合わせで、いずれが効果的であるかについて検討を進める必要があります。
本研究は、全国土木建築国民健康保険組合と連携し、津川友介准教授(UCLA)、佐々木周作准教授(東北学院大学)、後藤励教授(慶応大学)、田栗正隆教授・三角俊裕助教・三枝祐輔助教(横浜市立大学)と共同で行いました。保健事業介入についてキャンサースキャン社が協力しています。