本研究は、京都府の介護付き有料老人ホームである<ゆうゆうの里>に入居されている、平均80歳を超える高齢者の身体的活動を促す目的で開発した「ナッジ」の介入効果を実験で測定したものです。
Yamada Y, Uchida T, Sasaki S, Taguri M, Shiose T, Ikenoue T, Fukuma S. Nudge-Based Interventions on Health Promotion Activity Among Very Old People: A Pragmatic, 2-Arm, Participant-Blinded Randomized Controlled Trial. J Am Med Dir Assoc. 2022 Dec 15:S1525-8610(22)00887-8. doi: 10.1016/j.jamda.2022.11.009.
https://www.jamda.com/article/S1525-8610(22)00887-8/fulltext#%20
ナッジとは、「人々の好みや意思決定の特徴を踏まえたり活用したりして、強制や高額の金銭的報酬を用いることなく、本人や社会にとって最適な選択を自らが実行できるように促すためのメッセージやデザイン・仕組み・制度」であり、行動経済学や心理学などの行動科学の領域で研究成果が蓄積されてきました。
ナッジには、「法律や罰金などで利用を強要しないこと」「人々の価値観や好みに合わせて工夫すること」「人々の生活や社会全体の改善に貢献できること」などの特徴があります。
現在、さまざまなトピックでナッジの応用研究が実施されていますが、ナッジの役割は、本研究で着目した健康予防・介護予防のトピックで特に重要になります。これらのトピックでは、一般的にある選択の実行を人々に強制することはできませんし、強制すべきでもないからです。人々が自ら選択し実行することを前提にして、対策を考える必要があります。
したがって、健康予防・介護予防のトピックでナッジ活用の可能性を探究することの意義はとても大きいのですが、一方で、ナッジの効果は小さく短期的であることが、活用推進のボトルネックになっていました。
本研究の結果は、《損失の強調》《コミットメント》など複数のナッジを組み合わせることで、ナッジの効果がより頑健になり、持続する可能性を示唆しています。
従来のナッジの応用研究には相対的に若年層・青年層を対象にしたものが多く、本研究のような高齢者を対象としたときに、ナッジがどのような効果を発揮するかは分かっていませんでした。高齢者の好みや意思決定の特徴は若年層や青年層のそれと異なることが知られているため、ナッジの効果も年代によって異質的であることが予想されます。
したがって、高齢者を対象にナッジの応用研究を蓄積することは学術的に重要で、本研究には大きな新規性があります。本研究をきっかけにして、同様の研究がさらに蓄積されていくことが期待されます。
佐々木周作