人の意思決定や行動にはいろいろな癖(バイアス)があります。情報を簡略化して考え、意思決定に繋げており、これを「ヒューリスティックス」と呼んでいます。例えば、2980円と3000円の商品があった際、2980円の方が価格差20円以上に安く感じる癖があります。このように数字の左桁に情報を簡略化して意思決定することを左桁バイアス(Left-digit bias)と呼びます。医療の意思決定においても同様の事が起こっている可能性があります。
Fukuma S, Ikesu R, Iizuka T, Tsugawa Y. Effect of age-based left-digit bias on stroke diagnosis: Regression discontinuity design. Soc Sci Med. 2023 Aug 26;334:116193. doi: 10.1016/j.socscimed.2023.116193. PMID: 37657159.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0277953623005506?via%3Dihub
患者の年齢によって、医師や患者の行動は影響を受けています。患者が39歳11か月の場合と40歳0か月で、医師の判断や行動は変わる可能性があります。本研究では、迅速な行動選択が重要な脳卒中急性期の画像診断検査の選択が、患者の年齢(40歳未満か40歳を超えたか)によって影響を受けるかどうか、その影響は患者が男性の場合と女性の場合で異なるかどうかについて分析を行いました。
全国規模の保険者データベースを用いて、対象は時間外受診患者、患者の年齢(カットオフは40歳)を割付変数、アウトカムを脳卒中診断のための画像診断(頭部CTあるいは頭部MRI)実施割合として、回帰不連続デザイン(RDD)で分析を行いました。40歳近傍での画像診断割合の不連続な変化を、患者年齢によるLeft-digit biasが医師の脳卒中急性期診療の行動に与えた影響として推定しました。
集団全体 +0.51 %points (95%CI +0.13 to +1.07)
男性 +0.84 %points (95%CI +0.24 to +1.69)
女性 -0.03 %points (95%CI -0.56 to +0.43)
結果として、集団全体あるいは男性では患者年齢が40歳を超えることで画像診断実施割合が増加しました。年齢によって患者の状態は連続的に変化しているはずなので、40歳で不連続な変化があったということは、医師の判断にバイアス(年齢によるleft-digit bias)が存在していたという事になります。
男性患者で見られる認知バイアスが女性では見られなかった理由には、男性の方が脳卒中リスクが高いこと、女性ではリスク回避型の行動をとりやすい可能性などが考えられます。
本研究は、脳卒中など急性期医療において、医師の認知バイアスが、患者の受ける医療に影響を与えている可能性を示しました。認知バイアスに配慮した患者情報の集約や解釈によって、患者アウトカムと医療の最適化に貢献することが期待されます。